ひとり歩きの中山道
薮原宿〜奈良井宿《鳥居峠越え》
(1997.8.14)

 馬籠から妻籠の馬籠峠越えを体験し,旧街道を歩く旅に魅せられてしまった私の次の目標は鳥居峠越えとなった.鳥居峠は中山道の薮原宿と奈良井宿の間にあり,江戸時代,木曽路の最大の難所といわれたところで,現在,国道19号線やJR中央本線はトンネルで抜けてしまうので,青天井でこの峠を越えるのは旧中山道だけである.
 夏休みの8月14日9時09分.名古屋から中央本線を乗り継ぎ薮原駅に降り立った.駅前広場が駅舎に似合わず,とても広いが,駅前には何も無く,人影も見えないので,一層寂しい感じがした.

薮原駅

薮原宿の佇まい

 ここから中央本線の線路をくぐって反対側に出て中山道薮原宿へ入る.薮原は旧街道の面影がほとんど残っておらず,唯一道の曲がりくねった感じが,旧街道を彷佛させるのみである.しばらく歩いて,もう一度中央本線の線路を越えて住宅街の急な坂道を上ると「鳥居峠→」の標識がある.ここからいよいよ鳥居峠越えが始まるが,先ほどの標識の隣に「散策中に熊等の動物を見かける事があります.大声を出したり大きな音をたてるなど充分注意して通行して下さい」と書かれた真新しい看板があった.ひとり歩きの私にとってはちょっと恐い看板である.未舗装の峠道を上っていくと,ところどころに熊よけの鈴があり,心細い私は全部の鈴を鳴らして峠を上っていった.

鳥居峠の中山道

熊よけの鈴

 道はつづら折りでかなりきつい.腕時計の標高を示すグラフが急激に上がっていく.途中で息切れて,薮原のよろずや風の店で買った清涼飲料水で小休止をとる.あとから気がついたのであるが,この小休止をとった場所は,峠のすぐ下であったので,休憩後歩き始めてすぐに鳥居峠(1175m)に着いた.
 峠には御嶽神社遥拝所や水飲み場などがあるが,峠からの眺望はあまりきかない.この峠は分水嶺にもなっており,峠の南は木曽川を経て大平洋へと水が流れ,峠の北側は奈良井川から千曲川を経て日本海に流れる.日本列島の背骨の上に立っている様な気分である.峠を少し過ぎたあたりで,ご老人が一緒の家族連れの一行とすれ違う.「鳥居峠まではあとどれくらいですか?」,「もう少しですよ」と声を交わす.まもなく眺望が開け,奈良井宿の家並が遥か下方に見えた.いにしえの旅人たちはこの眺めを見て,さぞ勇気づけられた事だろう.峠の下りは上り以上に道が狭く険しくなる.よくもこんな道を参勤交代や和宮御降嫁の行列が行き来したものだと感心した.
 奈良井は中山道67宿の中でも屈指の大宿であり,江戸時代には奈良井千軒といわれるほど賑わっていた.伝統的な出し梁造り,千本格子といった奈良井独特の造りの建物が残り,妻籠宿とともに重要伝統的建造物群保存地区に指定されている.しかし,宿場内の道は鋪装されており,自家用車が行き来する様子は妻籠と大きく違う.奈良井での昼食はガイドブックを見て越後屋食堂で宿場弁当を食べた.
 食事のあとしばらく水辺のふるさとふれあい広場の芝生の上から木曽の大橋をぼーっと眺めて電車の時間までの時間を潰して,奈良井から今晩の宿,長野へと向かった.

鳥居峠付近からの奈良井宿の眺め

奈良井宿

木曽の大橋


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